“もの言う株主”村上世彰が日本社会に与えた功罪!ライブドアのニッポン放送株大量取得を巡るインサイダー疑惑の概略!
大企業の株式を大量取得して緊張感と効率性を欠いた経営方針に異議を唱える『もの言う株主』として知られた村上世彰氏が、インサイダー取引の容疑で逮捕されました。大量の外資と国内の投資家の出資を集めて縦横無尽の華々しい投資事業を行っていた村上世彰率いる『村上ファンド』は、今回の東京地検が主導した逮捕劇によって村上世彰体制から離脱することになりそうです。
証券取引法で禁止されているインサイダー取引とは、『一般投資家が知り得ない内部情報を利用して、不正な株式売買を行い利益を得る経済犯罪』と規定されますが、村上世彰容疑者の場合には、ライブドアのニッポン放送株買い占めを事前に知りながら、株の大量売却を行って巨額の利益を得た行為がインサイダー取引に当たると検察から判断されたということです。
しかし、実際には、ライブドアの機密情報(ニッポン放送株大量取得)を事前に知っていたというよりも、村上世彰氏本人が、ライブドア前社長の堀江貴文氏や前取締役の宮内亮治氏に『ニッポン放送株を買わないか』という話を持ちかけたというのが真相のようで、そうであればインサイダー取引の容疑を否定することは無理でしょうね。村上氏本人もあっさりと検察が突きつけてきたインサイダー疑惑についてはその内容を素直に認めているようで、逮捕と合わせて村上ファンドの役職も全て辞任しています。
ライブドアの堀江貴文氏がニッポン放送株取得の際に用いたグレーゾーンの手法である『時間外取引』も、株式など証券取引の技術や法令に精通した村上世彰氏が『そういった方法もあるから、調べてみるといい』というような形で教示していたようです。
日本の株式市場や投資ビジネス分野で大きな存在感と影響力を持っていた村上ファンドは、もの言う株主として『会社の所有者である株主への利益還元を意識しなかった大企業の経営陣』に合理的な経営改革や資産の有効活用を提案しましたが、結局、一時的な経営改善と意識改革によって株価を吊り上げ高値で売り抜けるという投資ビジネスの枠組みから抜け出すことが出来なかったのだと思います。
村上ファンドの建前として掲げられた『より良い日本社会とより大きな企業価値を作り出す』という理念やビジョンは素晴らしいもので、本当に実現できれば日本社会の活性化にも寄与すると思いますが、やはり、『株価上昇によるファンドと投資家の短期的利益』という実際の目的の前に高尚な理念は霞んでしまいました。
旧態的な大企業の経営陣に厳しい株主提案をしていくことで、従業員・株主・社会全体が三位一体となって利益増大や喜びの実感を得られるのであれば、村上ファンドの投資ビジネスやコンサルティング事業には大きな社会的価値が生まれると思います。しかし、実際の村上ファンドのビジネスの戦略を見ていると、その会社で働く従業員の待遇やその会社が社会に供給する製品・サービスにはあまり興味がなく、短期で莫大なリターンにつながる株価の高低だけに意識が向かいすぎていました。
阪神電鉄やニッポン放送、明星食品、昭栄など大企業の株を大量に取得した村上世彰氏は、これらの企業の経営陣に、ビジネスに転用できる優良資産の有効活用や営業利益を生まない不要な資産の売却などコスト削減を株主提案しましたが、どのケースでも中途半端な状態で経営改革には無関心になり株式売却で大きなキャピタルゲインを得ています。
企業の財務諸表や市場の動向を読んで株式売買で大きな利益を上げること自体は悪いことではないと思いますが、特別な経営理念や事業への熱意を持たずに企業の経営を全てひっくり返して経営権を掌握しようとするようなブラフは余り頂けないなと思います。今回は、インサイダー取引という経済犯罪で逮捕されたわけですが、もしこれで仮に村上氏が有罪になると、巨額の投資資金を有する個人同士が迂闊に証券取引に関する話をすることがタブーになるでしょうね。少額の資金しかもたない個人が何処どこの株が良さそうだから買おうかなと言えても、莫大な資金を持つ個人が同程度の資産を持つ相手に対して株や債券の話をすることはインサイダーの疑惑を生むことになります。
数百億円規模の投資資本を持つ人が集まって何らかの投資行動を起こせば、敵対的買収による株価変動や経営方針の変更など株式金融市場に何らかの影響を与えることは確実なわけですから、厳密にインサイダー取引の取り締まりをすれば村上ファンドの容疑だけに留まらないような気もします。大規模な投資を行うファンドや個人が、一般投資家と全く同じ情報環境におかれているわけもなく、インサイダーすれすれの極秘情報を入手している可能性は絶えずあるわけで、その意味では株式市場の公正性や健全性というものが何なのかというのは難しい問題ですね。
インサイダー取引の規制の趣旨・根拠は過去の記事に書いたように、『証券市場の公正性と健全性の確保』『投資者の保護=一般投資者と会社関係者である投資者との競争の公平性を担保する』にあるとされ、インサイダー取引を規制することで個人投資家の投資意欲を維持し、市場の公正性を担保しているわけですが、実際の情報環境には大きな格差があり、内部情報と一般情報の区別にも曖昧な部分が多くあります。
■今回の村上世彰氏のインサイダー事件の概略をまとめると以下のようになります。
村上代表の『M&Aコンサルティング』が2003年からニッポン放送株を買い進めていって、2005年1月5日時点で、既に609万株(発行済み株式総数の18・57%)を保有していました。ファンドによる株式大量取得に防衛策を打つ必要を感じたフジテレビは、1月17日にニッポン放送の親会社になろうとして、ニッポン放送株の50%超の取得をTOB(株式公開買い付け)で目指しますが、時既に遅しで、ライブドアが2月8日にニッポン放送株の35%を取得したと発表しました。投資家としてのセンスに優れた村上世彰氏は、フジサンケイグループにおいて、事業規模の小さなニッポン放送がフジテレビの株を大量保有しているという『資本関係のねじれ』に着目して、ニッポン放送買収をライブドアに持ちかけたとされます。
ライブドアの堀江貴文氏らが『時間外取引』という株式取引の裏技を使ってニッポン放送株を大量取得すると、大量の値上がりしないニッポン放送株を抱えて困っていた村上世彰氏は、自分の読み通りに値上がりした同社株を一気に466万株売却してしまいます。初めからニッポン放送やフジテレビの経営権取得などに村上氏は興味がないですので、ニッポン放送の株価上昇だけを目的としてライブドアを動かしたともいえます。売却した結果、村上氏側のニッポン放送株保有比率は3.44%(112万7800株)まで下落しましたが、その売却益は100億円に近い額になったと言われます。
東京地検の判断では、ライブドアの堀江貴文氏らがニッポン放送株を5%取得した時間外取引はTOB(株式公開買い付け)に準じる行為であるとされています。村上ファンドは、ライブドアによる同社株の大量取得情報を公表前に得ていて、値上がり確実なニッポン放送株を売買した為にインサイダー取引の容疑を掛けられているわけです。東京地検特捜部は、村上ファンドの事前に知りえた機密情報によって巨額の利益を得た行為が証取法の『公開買い付け者等関係者等が禁止される行為』に当たる可能性が高いとして村上世彰氏の検挙に踏み切りました。証券取引というのは複雑な経済行為ですが、それを取り締まる法律もまた更に複雑なわけで、違法行為か合法行為かの間には多くのグレーゾーンが横たわっているとも言われます。東京地検特捜部の権威的な違法性の指摘や社会道徳引き締めの意図を持った捜査などが行われる可能性も否定できない領域なので、細かい部分を金融商品取引法の改正などでつめていく必要があると思います。
村上ファンドが日本社会や経済活動に与えた影響には功罪があると思いますが、『株主価値のみに還元できない多様性のある企業価値』の部分を忘れた株価市場主義の投資ビジネスに走ってしまったところに今回の事件が起きた気がします。
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