『有名美容外科医を母に持つ池田果菜子さん誘拐事件』から考える『セレブのマスメディア露出の危険とリスク管理の重要性』
■“セレブ(経済的富裕層)のマスコミ露出”と“個人情報保護のリスク・マネージメント”
昨日は、ニュース番組やワイドショーの殆どが、『有名美容外科医池田優子さんの長女・池田果菜子さん(21)の誘拐事件』を長い時間を使って報道していた。この事件は、日本の『経済格差の表面化』を象徴している事件であり、俗にいう『一代で財力を得たお金持ち』がマスコミに露出することで背負うことになるリスクかもしれないと感じた。最近の日本ではセレブ(経済的富裕層)を持ち上げて、面白おかしくその優雅なライフスタイルを取り上げる番組が増えている一方で、国の借金は800兆円を大きく越え、社会保障が削減される中で、その日を生きるだけで精一杯の低所得層や生活保護世帯が増え続けている。
とりあえず、池田果菜子さんが無事に保護されたことで安心したのだが、こういったテレビやネットを通じた個人情報から犯罪に発展するケースというのは、日本の経済状況や政策の方向性を見ていると、これからも増えることはあれ減ることはないのではないかと思う。
女子大生誘拐:母の携帯に3億円要求…無事保護 3人確保26日午後0時25分ごろ、東京都渋谷区鉢山町の東急バス「伊太利屋本社バス停」前の路上で、近くの美容外科医、池田優子さん(47)の長女、果菜子さん(21)=明治学院大経済学部4年=が、男に無理やり車に押し込まれた。その後、男の声で池田さんの携帯電話に3億円を要求する電話がかかったため、警視庁捜査1課と渋谷署が捜査を開始。携帯電話の位置情報などから、川崎市中原区のマンションに男がいることが分かり、27日午前1時25分ごろ果菜子さんを無事保護、男ら3人を身代金目的誘拐容疑で確保した。
調べでは、果菜子さんが通学のため歩いてバス停に来た際、男が「バスは来ないから乗りな」と声を掛けた。果菜子さんが「いいです」と断ったところ、男は近くに駐車していたワゴン車に果菜子さんを無理やり押し込み、自分は助手席に乗り込んで逃走した。果菜子さんは拉致された際に悲鳴をあげ、付近で目撃した通行人の女性が、現場から200メートルほど離れた鉢山交番に事件を通報した。
『有り余る豊かさを持ったセレブ』と『ギリギリの貧しさに喘ぐ層』が同じ国のごく近い距離の中で生活していれば、必然的に社会の治安は悪化して、アメリカのようなセキュリティ過剰社会、経済階層に基づくコミュニティの細分化が進むことになる。アメリカや東南アジア、アフリカにはスラム街と呼ばれる最貧困層のコミュニティがあり、同時に、経済的富裕層や社会的成功者が集まって住むハリウッドやニューヨークにあるようなセキュリティゲートと警備員に守られたコミュニティがある。日本はまだそこまで経済階層の二極化が鮮明になっていないが、高齢者でも若年層でも中高年でも、その職業や所属組織によって所得格差や資産の有無は拡大している。確かに、一部上場企業のサラリーマン同士や医師や弁護士といった専門職同士の経済格差は縮まっているが、フリーターや無職者とサラリーマン層などの経済格差は、数十年後には物凄く大きなものとなっている可能性があるし、その時に社会保障の財源が日本になければ治安は急速に悪化していく恐れがある。
村上ファンドの村上世彰氏が証券取引法違反で逮捕されて拘置されていたが、ポンと5億円の保釈金を小切手で支払って釈放された。このように、普通のサラリーマンでは一生かかっても稼げない金額を僅か数年、あるいは数日で稼いでいる層が厚くなっていて、日本では経済的な階層は大きく二極化していっている過程の状況にあるように思える。経済所得層の底辺を見れば、生活保護を打ち切られたり拒否されて餓死や孤独死に追いやられる人たちがいる一方で、経済所得階層の頂上付近を見れば資産1億円以上を持っている人が日本には100万人以上もいるそうだ。
100万人もいれば、誰か身近に1億円以上の資産を持っている人がいてもおかしくないような気がするが、実際には都心部の経営者や農村部の大土地所有者の資産家などに集中しているので、多くの人は自分の周囲に資産1億円以上を保有している知人を見つけることは出来ないだろう。そして、フリーターやNEETの層などは、将来に所得が増える可能性が低いので、年齢を重ねるにつれて両親からの経済支援が途絶えると低所得層に急落する恐れが高い。日本の現在の雇用システムや財政状況、政治方針などを見ている限り、今後、日本が経済的な平等性やセーフティネットの水準を高める方向に変化する可能性は極めて低いことは確かだろう。
池田果菜子さんを誘拐した犯人たち(中国籍の李勇(29)・韓国籍の崔基浩(54)・岩手県出身の伊藤金男(49)という国籍がバラバラな犯人構成)は、幾つかのテレビ出演をしていた美容外科医の池田優子さんの裕福な生活ぶりと豪邸や高級車などの資産を見て、『この母親なら娘のために数億円くらいは用意できるに違いない』と踏んで短絡的な犯行に着手したという。
池田優子さんは、個人情報流出のリスク管理をあまり意識することなく、テレビで数億円の華麗な豪邸の全貌を公開して、大学生活を送る可愛らしい自慢の娘の紹介をした。娘には贅沢はさせないようにしていると言ったかと思うと、免許を取った娘に700万円するベンツのワゴンを買ってあげたと笑いながら語り、娘はそのベンツに殆ど乗ったことがないんですと語っていた。
この番組を見ている人たちの層が池田さんと同程度の経済力を持つ層であったり、中流階層で自分の日常や家庭生活にそれなりに満足している層だけであれば、今回のような事件のリスクや個人情報の管理に配慮する必要はないかもしれない。しかし、忘れてはならないのは、テレビには膨大な不特定多数の視線と思惑が寄せられていて、テレビを見ている人全てが満たされた日常生活を送っているわけでもない、豊かな洗練されたライフスタイルを持っているわけでもない、また、絶対に犯罪を犯さないという常識的な良心をもっているわけではないということだ。
確かにテレビを見ている人の90%以上は、常識的な善悪観と良識的な市民生活を持った一般国民だと思うが、ごく一部には、犯罪活動によって生計を立てている人や生活の困窮が極限に達して何か事件を起こそうと画策している人がいるのだから、誰に見られても自分の身に直接危険が降りかからないような情報公開の方法を工夫すべきなのだと思う。
マスメディアは、企業や組織が自分のビジネスを宣伝広告する場合の強力なツールだが、視聴者の層を選べないために個人が自分の個人情報や私生活を公開するツールとしては余りにリスクが高いツールだ。名前や顔を売ってお金を稼がなければならない芸能人や著名人、スポーツ選手などはともかくとして、一般のビジネスや医療を展開している個人が『ビジネス以外の生活水準や家族構成を公開すること』は極めて重要な個人情報を日本全国に対してばらまいていることになる。
テレビと切り離された生活場面で適切なリスク管理が出来ない人が、私生活をマスメディアに晒すことはかなり危ないのである。特に、大学生という年頃の子息令嬢を持っているセレブ層は、もう少しマスメディアの露出に対して危機意識を持って、実際の居住地や家族構成がばれないようにするなどうまくリスク管理を取り入れていかなければならない。大きくなった息子ならまだしも、体力的に犯罪に対抗できない娘を全国放送のテレビに出演させる場合には、相当に慎重になるべきだし通っている大学名などは絶対に出してはいけないと思う。
しかし、池田果菜子さんが直接的な暴行や危害を加えられなかったことは不幸中の幸いだったと思うし、今回の犯人たちが本当に緻密な計算を巡らすタイプの知能犯や凶暴な性質の凶悪犯でなかったことが救いだと思う。テレビにせよ、インターネットにせよ、自分の経済状況や資産構成、家族構成を情報公開する場合には、『誰が見ているか分からないから、この部分はセーブして隠しておこうというリスク管理』が重要になってくる。中流階級に属する大多数の人は、個人情報管理にそれほど神経質になる必要はないが、他者の羨望や嫉妬を集めやすいレベルに達したセレブと呼ばれる人たちほど、自分の個人情報の公開やリスク管理に対して慎重に用心深くなる必要があると思う。
日本の経済格差自体の問題には立ち入らないけれど、金銭目当ての短絡的な犯行、凶暴ではないけどお金だけに困って為された犯行というのを見ていると人間の精神的な弱さや経済的困窮に対する脆さが透けて見えて暗鬱な気分になる。みんながセレブとか勝ち組になる必要はないと思うし、全員がそれなりの生活水準を維持していけるような社会保障の充実とか再雇用制度の促進とか、累進課税の適正な配分とかを日本政府にはもっと真剣に考えて欲しいな…。あと、新聞各紙は、誘拐された果菜子さんのプリクラだとかを早速アップで貼り付けているが、誘拐されたばかりの女性の顔写真を積極的にアピールするのは良くないのではないだろうか。
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