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2006.12.1405:15

Winny(ウィニー)開発者・金子勇氏に罰金150万円の有罪判決が下る!ソフトウェアの開発・公開にまつわる『技術的な中立性』と『法律的な違法性』の矛盾?

P2P技術を用いたファイル交換ソフト“Winny(ウィニー)”を開発・公開(配布)した元東京大学大学院助手の金子勇被告に、罰金150万円の有罪判決が下されました。この京都地裁の判決は、著作権法侵害の幇助という法理に照らせば理解できる部分もありますが、P2Pという新技術を活用して情報交換を促進させる為のソフトを開発・公開することそのものが違法なのか否かということについて議論を深める必要があると思います。

しかし、ユーザに違法な使われ方をしたソフトウェアのプログラマー(開発者)に、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪が問えるとなると『科学技術(情報技術)の中立性』が根幹から崩れることになりますね。本人が意図した『合法的な目的』とは違う『違法な目的』で自分の開発したソフトがユーザに使われてしまうと、ソフトを開発・配布したプログラマーが犯罪を犯したことになってしまうというのはちょっとおかしいと思いますが、今後控訴した場合に司法の裁判官がどんな判決を下すのか見守っていきたいと思います。

ウィニー開発者に罰金150万円の有罪判決 京都地裁

ファイル交換ソフト「ウィニー」を開発・公開し、利用者が許可を受けずに映画やゲームなどをインターネット上で送信するのを助けたとして、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問われた元東大大学院助手金子勇被告(36)=東京都文京区=に対する判決公判が13日、京都地裁であった。氷室真裁判長は「著作権者の利益が侵害されることを認識しながらウィニーの提供を続けており非難は免れないが、著作権侵害の状態をことさら生じさせることは企図しておらず、経済的利益も得ていない」と述べ、罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した。金子被告は控訴する方針。

インターネットの情報技術の進歩と普及は、人間の欲求と行動を劇的に変化させますが、その急速な変化に社会と法律が追いついていないという状況があります。端的には、創作者(クリエイター)の仕事に長期的な利益をもたらしてきた『著作権』の思想の足元が揺らいでいるということですね。リンクでつながったウェブ(WEB)の目的は、『情報(コンテンツ)を自由に公開して、独占せずに共有すること』ですが、P2PソフトのWinnyは、『著作権で守られているはずの音楽・映画・写真を自由に交換できる』ことによって著作権者から敵視され、司法から著作権に対する違法行為を助長したと判断されてしまいました。

氷室真裁判長は、『著作権者の利益が侵害されることを認識しながらウィニーの提供を続けており非難は免れない、著作権侵害の状態をことさら生じさせることは企図しておらず、経済的利益も得ていない』という理由で、懲役刑ではなく150万円の罰金刑を下したわけですが、それと同時にWinnyに使われた情報技術やプログラムの『価値中立性』については認めています。ただ、『ファイル共有ソフトが、インターネット上で著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を認識しながら認容していた』ということが、著作権法違反の幇助犯の構成要件を満たすと判断されたようです。

つまり、違法な目的でWinnyを使っている悪質なユーザがいることを、あなたは知っていたのに、それを止めずにWinnyを公開し続けていたからあなたの行為は違法(犯罪行為の幇助)であると裁判所は言っているわけですが、それと同時に、裁判所は『金子勇被告は、著作権侵害の蔓延を積極的に企図したとまでは認められない』と留保をつけて情状酌量しているようです。

どんな情報も瞬時に複製してネットで伝達・共有することが出来る情報化社会では、情報(コンテンツ)の違法な複製や共有を実力行使で止める手段がない。WinnyやShareのように何十万人、何百万人という匿名ユーザが利用するファイル交換ソフト(P2Pソフト)では、一人一人を著作権違法の容疑で取り調べをすることは物理的に不可能であり、インターネットでは一番初めに違法なファイルをアップロードした人物を特定すること自体がまず不可能という問題があります。そういった現実を直視するならば、ソフト開発者はウィニーのようなファイル交換・共有ソフトを開発しても良いが一般に公開(配布)してしまうと、著作権法違反幇助の刑事責任を問われる恐れがあるということになります。

日本だけで何千万人もの人が利用するネットでは『気が付けばそこにあったから保存して共有した』というコンテンツが無数に散らばっています。アイコラだとかファンサイトの芸能人の写真だとか、著作物の転載だとか細かく著作権法に違反しているページを見つけていくと、何億ものファイルを見てアップロードした人物を特定しなければならず非現実的です。ネットが登場する以前には想像も付かなかったファイル交換・共有ソフトの開発によって、著作権者の利益や企業の権利ビジネスをどう守れば良いのかが分からなくなっているのが現状だと思いますが、Googleが買収したYouTubeなどの動画共有サイトの出現と人気を考えると今後、この問題は更に複雑になっていきそうです。

金子勇被告とその弁護人、支援者の言い分としては『新しい技術を開発することが、どうして罪になるんだ』『開発者は、あらかじめ起こる影響をすべて予想してから公開しろというのか。理解できない』『技術の価値は中立だと言いながら有罪というのはおかしい』などが上がっていますが、この『科学技術の中立性』に根ざした言い分には同意できる部分もあります。今回の判決を前提に考えると、情報技術を応用したソフト自体の価値は中立的だが、それを悪用するユーザがいる場合には、開発者は即座にソフトの公開を停止しなければならないといっているわけですね。

しかし、この論理が成り立つならば、『アメリカで拳銃を開発している企業は、それが犯罪や暴動に利用された場合には殺人幇助の罪に問われる』ことになってしまい、そういった論理を拡大解釈すると企業や個人は何も開発・販売できないということになってしまうかもしれません。Winnyなど著作権を侵害するネットの技術だけは特別なのだという判断をしているのであれば、それはそれで、法の平等性や公正性に悖るという非難を受けることになるでしょう。

しかし、最終的に『ネットでのコンテンツの公開・共有の問題』は、『著作権の実際的な保護とその範囲』をどのように策定していくのかという議論に収斂していくほかないのではないかと思います。いずれにしても、インターネットが普及した情報化社会において『コンテンツの公開・複製・販売の権利』を完全に独占して長期的利益を得ることは至難ですね。著作権で保護されたコンテンツに対する独占的裁量が、法的には可能でも実際的には殆ど不可能であるという矛盾がウィニー問題の背景にあると思います。

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